旭川市博物館の瀬川拓郎さんをお誘いして、カイの仲間たちと網走の道立北方民族博物館に行ってきた。第一の目的は、「保苅実写真展 カントリーに呼ばれて」を見ることだ。

保苅実は2005年にわずか32歳で亡くなった歴史学者で、オーストラリア先住民とともに暮らした日々をもとに、『ラディカル・オーラル・ヒストリー』(御茶の水書房)という、才気がみずみずしくほとばしるような書物を残した。ほかに訳書『生命の大地/デボラ・B・ローズ』(平凡社)がある。
写真展は、保苅がオーストラリア滞在中に撮った写真と、著作のテクストを組み合わせたもの。開催にこぎつけるに至ったいきさつに、本誌写真家の露口啓二が深く関わっていることもうれしい。

『ラディカル・オーラル・ヒストリー』では、無文字社会であるアボリジニの長老が語る歴史(オーラル・ヒストリー)についての論考がさまざまに展開される。例えば保苅は、長老が口にする、オーストラリア史には全く存在しない荒唐無稽と思われるような出来事と丹念に向き合う。それらは一般には、正史とは別に神話や伝説にくくられる類のものだ。しかし彼は、そうした複数の歴史をひとつの時空間に混在させることはできないかと、ある種途方もない思考をめぐらす。(その手段のひとつが現地の人と暮らしをともにすることであり、保苅はその行為を「歴史する」と呼んだ)。

保苅実の仕事は、オーソドックスな学問領域だけには位置づけられないものだ。それはまた人と自然、環境、近代といった、いくつものアクチュアルな問題軸を勢いよく同時に貫いてしまう、しなやかな知と身体のふるまいでもあるだろう。そこが僕たちを強く引き寄せるのだし、それに敏感に反応する考古学者・瀬川拓郎さんや、写真展を実現させた北方民族博物館学芸員・笹倉いる美さん(お二人とも現在発売中のカイ7号に深くご協力いただいた)の仕事が僕たちを刺激するのも、同じ理由からなのだ。

●「保苅実写真展 カントリーに呼ばれて」
オーストラリア・アボリジニとラディカル・オーラル・ヒストリー
4月29日〜6月20日
北海道立北方民族博物館(特別展示室・観覧無料)
(北海道網走市字潮見309-1 tel 0152-45-3888)